歴史と時代 Archive
風を継ぐ者
- 2007年10月12日 21:37
- 歴史と時代
池田屋事件の1ヶ月前、壬生村の新選組屯所に入隊試験を受け、入隊したふたりの男の物語です。ふたりが配属されたのは、沖田総司率いる一番隊。それなりに剣もできる小金井兵庫はそこそこに、足が速いだけの立川迅助は根性だけで隊務をこなしています。主人公は、足の速い迅助ですが、キーパーソンになるのは沖田総司です。小金井と立川は、池田屋事件で喀血した沖田が内緒で通っていた診療所で出くわし、やがて逆恨みによる沖田暗殺事件に巻き込まれていく様がとてもテンポ良く描かれています。
新選組ものでありながら、架空の人物を主人公に据えたことで、隊士の日常を含め、どこか憎めない新選組ものになってるんですね。元が舞台ですから、登場人物の行動にスポットがあたっていて、物語を読むと言うより、漫画を見てる感覚に近いものがあります。史実派の人には「こんなの新選組じゃねー」って叫ばれそうですが、エンターティメントとしてはとても面白く読めました。ちなみに、舞台で一番お茶目なのは、鬼副長こと土方歳三です。出番はそれほど多くありませんが、総司の兄貴分としてお節介焼きな面が前面に出ています。
新選組というととかく血なまぐさい殺陣が前面に出勝ちですが、「風を継ぐ者」は、迅助の俊足を活かした走る姿が最大の見せ場です。まっすぐ走り、まっすぐに生きた男の青春賛歌。それは誠の旗のもとで純粋に戦ってきた新選組に通じるものだと思います。
![]() | 風を継ぐ者 成井 豊 真柴 あずき 論創社 2001-04 CARAMEL LIBRARY by G-Tools |
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総司 炎の如く
- 2007年10月11日 22:20
- 歴史と時代
新選組の一番組隊長、沖田総司といえば、類い希なる剣豪でありながら若くして病に倒れた薄幸の剣士というイメージが一番にきます。映像化された作品で沖田を演じるのは皆、美少年ばかりで、しかも池田屋事件で喀血するので、線が細いイメージが先行。でも、実際は、それほど美形でもなく、標準的な日本人顔の冴えないお兄さんだったとかなかったとか。それでも剣に掛ける情熱はどこまでも熱い武士だったようです。「総司 炎の如く」は、そういう熱血青年のイメージが非常に強い作品です。
新選組の隊務ではどこまでも厳しい青年が、子供相手には優しいお兄さんになるという相反した面は、沖田の二面性が両極単に現れていたからでしょう。結核を患ったのも、隊務が激務であり、更にストレスに晒されていたからではないかと思うのです。剣に生きながら、本音では殺生を好まない情熱家に情け無用の隊務はきついものだったと思います。感情が豊かだったからこそ、無情にならざるを得なかった人生ですが、総司がそれを不幸と感じていたかどうかは別問題です。
時間軸に沿ったオーソドックスな展開ですので読んでいて安心感はあります。また、理想化された剣士でなく、非常に人間味のある青年として書かれていますから、新選組ものでありながら、なんとなく毛色が違った感じが残りました。人間味のある歴史物が好きな人には好まれる書き方だと思います。
![]() | 総司 炎の如く 秋山 香乃 日本放送出版協会 2003-10 by G-Tools |
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天は赤い河のほとり外伝-魔が時代の黎明
- 2007年9月23日 21:48
- 歴史と時代
古代ヒッタイト帝国を舞台にした「天は赤い河のほとり」の外伝が文庫本で出ました。少年時代のカイルとザナンザのエピソードが読めるのは嬉しいけど、作者がいっしょなら、本業の漫画で描いて欲しかった!2巻に別れてますが、非常に薄い本なので、2巻で通常の文庫本1巻以下くらいのボリュームで、サクッと読めます。
サブタイトルに「魔が時代の黎明」とあるように、カイルにとって最大の敵となる皇妃ナキアの誕生とザナンザのカネシュ赴任までのいきさつが描かれています。表だって活躍するのはカイルですが、ザナンザの成長物語でもあります。彼がどの地点でカイルと並び立つ皇子としての自覚を持ったのか、コミック本編の補完として頷ける内容です。コミック本編のヒロインがまだ登場する以前の物語なので、ヒロイン不在ですが、重要な伏線を異母姉ネピス・イルラ皇女が「予見」として語ってくれます。本編を知っている人なら、ははーんと頷ける内容です。かなり抽象的な言い方なんですが、わかる人にはわかる予見なのです。ええ、思わずニヤリとしたくなるような。
コミック本編が完結してかなり時間が経っていますが、カイルとナキアの確執がどれほど深いのかよくわかるエピソードです。こういう脇を固める小作品がいくつかあると本編にも深みが出ていいですね。コミックで発表されたラストエピソードは、正直言って、肩透かしをくらわされた感が強かったですから。同じ読むなら落日の話より、キャラの関係が深まるようなものの方が読後感がいいですし、本編をもう一度読み直そうという気にもなります。そういう意味では、今回のようなエピソードはとても嬉しかったです。
![]() | ![]() | 天は赤い河のほとり外伝―魔が時代の黎明 篠原 千絵 小学館 2007-05 小学館ルルル文庫 全2巻 by G-Tools |
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歳三往きてまた
- 2007年3月19日 21:54
- 歴史と時代
新選組の土方歳三ものといえば、冷酷と情熱をもって鮮烈に散った男というイメージが強いです。土方の若かりし頃(多摩時代)から京都の絶頂期を主軸にした作品はたくさんありますが、近藤の死後から函館までとなると、かなり減ります。「歳三往きてまた」で驚いたのが、鳥羽・伏見の戦い以降を詳しく描いていたことでした。新選組の鬼副長ではなく、人間味溢れた穏やかな土方歳三。どうしてそこまでの境地に至ったか、作者ならではの解釈がしっかり書かれています。
土方は会津に逗留中、大きな戦果は残していません。その時の新選組を率いていたのは、山口次郎と改名した斎藤一。斎藤は、会津の間諜として新選組に入ったことになってます。それでも近藤亡き後、土方の側で新選組を心から語れるのは彼しかいない。立場は異なるけれど、誰かのために戦い続ける男として一番分かり合えたのが斎藤だったということなのでしょう。
会津逗留のもうひとつのポイントは、家老・西郷頼母の娘とのひっそりしたラブロマンスかな。会津落城の時に、一家自刃した西郷家なので、ふたりの逢瀬はほぼフィクションでしょうけど、「燃えよ剣」の雪と張り合えるくらいインパクトがありました。
榎本に与して以降、新選組の島田、相馬、野村といった最後の隊士との絡み、大鳥の描き方、どれも新鮮な切り口です。土方が主人公で、大鳥を悪く書いてないのは珍しいかも。たまたまそれまで読んだ本がそういう傾向だったのかもしれませんが、あまり分かり合えたイメージを持ってなかったんです。けれども、五稜郭という限られた中で、対立していたのではやっていけないはずだから、とても納得できる書き方でした。滅びを書いていながら、悲劇だけを感じさせない読後感は、作者の人生観が反映されているように思います。
![]() | 歳三往きてまた 秋山 香乃 文芸社 2002-03 by G-Tools |
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新撰組顛末記、新選組日記
- 2006年2月26日 22:18
- 歴史と時代
時代小説を読むと、もとになった本も読んでみたくなります。私が読んだのは定番中の定番といえる「新撰組顛末記」と「新選組日記」です。
永倉新八の「新撰組顛末記」は、手記というより回顧録です。回顧録ゆえに永倉の記憶違いと思われる点が研究者などから指摘されてますが、時代の生き証人の作という点で資料的価値が高いです。
「新選組日記」は、副長助勤・永倉新八の幻の手記『浪士文久報国記事』と、『島田魁日記』を読み解いているので、対比させて事件を知るのにいいです。また、細かい字が気にならなければ、「新選組日記」の方がふたり分読めるのでお得感があります。
でも、どちらも時代小説好きにはあまり向かないかも知れません。
なんだかんだ言っても内容が硬い!
面白く読める本とは言えないです。
![]() | ![]() | 新撰組顛末記 永倉新八(新人物往来社) 新選組日記 木村幸比古(PHP新書) |
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女王の娘
- 2006年1月 5日 23:13
- 歴史と時代
ロマンス小説やサスペンス小説は好きな人はどっぷりはまるけれど、苦手な人はとことん手を出さない。もしもジョハンセンの「女王の娘」が16世紀のイングランドを舞台にしていなかったら、おそらく手にすることはなかったに違いない。西洋に於ける16世紀は私にとって非常に魅力的なロマンあふれる時代だからだ。
「女王の娘」のヒロイン・キャサリンは、スコットランド女王メアリの隠し子として登場する。エリザベス女王の命令で、独立独歩を歩むブラッド・ロバートへの牽制として突如結婚させられるわけだが、喰えない男ロバートは、スコットランドの風習を巧みに使って一年の契約結婚に持ち込んだ。考えようによってはずるいが、一年我慢すれば自由になれるケイトにとっても美味しい話でふたりの意見は一致する。本書の前半は、クレイドーに帰還するまでの旅に費やされ、旅の中でケイトはロバートと結ばれる。それでも一年の契約結婚は続行。矛盾しているが、現実問題としてロバートは王位継承に関わるやっかいごとを領地に持ち込む気になれなかったのである。そしてロバートを愛し始めたケイトも美しい島に争いを持ち込むのを好まなかった。感情のままに行動しているようで最後の理性を保つギリギリの政治バランスがふたりともすごい。まさに生まれつきの為政者なのだ。
しかし、秘密はいつかバレるもの。野心家のアレックの策略でケイトはロバートの元から去るが、そのくらいでケイトを諦めるようなロバートではない。固い絆で結ばれた仲間と共にヒロイン奪還を目指すという下りがロマンス小説の典型なわけだが、武力だけではなく頭脳戦というあたりがロバートの喰えない所以である。さすがはエリザベスが選んだ男。ケイト出生の秘密を暴く、最後のどんでん返しまでロバートの独断場だ。このあたりは歴史好きにはたまらない仮説の世界である。
でも、物語の最後を締めるのは、やはりヒロインのケイトだ。逞しい女性らしく、彼女は自分の本当に欲しい物を見極め己の意志を貫き通す。そのしたたかさは、まさに血は争えないというべきか。権力か愛かを突きつけられたとき、どちらを選ぶかはその人次第だ。けれどもロマンス小説では、愛を選ぶ者が勝つお約束。自分の居場所を勝ち取ったケイトの選択は非常にすがすがしく、小気味よい読後感を与えてくれた。
<作品データ>
【タイトル】女王の娘
【作者】アイリス ジョハンセン Iris Johansen
【訳者】葉月 陽子
【出版】二見書房 2002-09
【物語】スコットランド女王メアリの隠し事ささやかれ、厳格な牧師セバスチャンに育てられたケイトは、ならず者と恐れられる辺境の島クレイドーの領主ロバートと一年限りという契約で愛のない結婚をした。しかし、クレイドーまでの人生を掛けた旅の中でケイトは次第にロバートに惹かれ愛するようになる。ふたりの心が結びついたとき、アレック・マルコムがケイトを利用してイングランド支配を目論む。ケイト奪還に燃えるロバートたち。そしてその中で明かされたケイト出生の真実とは?
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女教皇ヨハンナ
- 2005年12月 4日 22:47
- 歴史と時代
ドナ・W・クロスの「女教皇ヨハンナ」は、公式の記録から存在を否定されている女教皇ヨハネス8世の歴史物語です。
![]() | ![]() | 女教皇ヨハンナ (上) 女教皇ヨハンナ (下) ドナ・W.クロス 草思社 2005-10 |
ヨハンナは9世紀という非常に女性蔑視の時代に生を受けました。女は家事をして子供を産み育てるだけの存在であり、そこに個人の権利などありません。学問をすることすら認められていませんでした。もっとも当時、学問を必要としたのは貴族階級か僧侶ぐらいでしたから、一般市民にはそれほど影響はなかったでしょうが、いつの時代にも学問を学びたい女性はいるのです。
決して男の人に身を任せてはだめよ
母の言葉を何度も噛みしめて、ヨハンナは男性の修道士として生きる道を選びました。そこに至るまでに破れた恋もあるわけですが、失敗を経験したからこそ彼女は強くなりました。挫折を克服すると人間は強くなります。苦労がヨハンナの糧になっていくのです。
時代の波に乗ったヨハンナは、一修道士から枢機卿、そして教皇へと上り詰めます。男性として生活していても、ヨハンナの視点は女性です。それが戦乱に疲れていた市民の心を掴みますが、女性が捨てられなかったヨハンナは禁断の恋に陥ってしまいました。恋は人を強くします。けれども、女性であるヨハンナにとっては大きすぎるリスクを背負わせてしまったのでした。それでも、自分の身の安全より市民のことを考えたヨハンナは、最期まで「人民の教皇」であり続けました。教皇としての勝利を掴み、女性としても幸せな瞬間を迎えることができたヨハンナの人生を不幸だとは思いません。しかし、男性社会はヨハンナを否定しました。
ヨハンナに限らず、歴史から抹殺された人物は少なからず存在します。けれども、その人に価値を求める人がいれば必ず真実は残る。民間伝承などが正史と異なる終わり方をしているのはそのひとつの表れでしょう。ヨハンナもそうして語り継がれ、時には不確かながらも文献に名前を刻まれて、歴史に残りました。
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薫風のフィレンツェ
- 2005年10月31日 23:53
- 歴史と時代
イタリア・ルネサンスを代表する天才彫刻家ミケランジェロの若き日に絞って書かれたのが榛名しおりさんの「薫風のフィレンツェ」三部作です。
![]() | ![]() | ![]() |
【著者】榛名 しおり
【出版】講談社X文庫―ホワイトハート
花の十五世紀。綺羅星のごとく天才が輩出したルネッサンス・イタリアで、一際輝く巨星―それがミケランジェロ。豪華王ロレンツォ・デ・メディチの強力な庇護のもとで、類まれな才能を磨いていた。メディチ家の宮殿に招かれたミケランジェロは、白絹のガウンをまとい、背中に純白の羽を持った、えもいわれぬ清らかな少女に出会った。だが、その「天使」は、敵意の籠った視線をミケルに向けた…。
彫刻家を目指して家を出たミケランジェロがロレンツォに庇護され、彼の死後メディチ家がフィレンツェを追放されるまでの数年間を書いた作品です。ミケランジェロを巡るふたりの人物がいます。ひとりは生涯関わり合いをもつことになる実在の人物ジュリオ。もうひとりはミケランジェロが恋する架空の美少女リフィア。リフィアは複雑な生い立ちを背負ったヒロインなんですが、私は彼女がどうしても好きになれませんでした。気高い志を持つ少女は好みのタイプなんですが、今回に限りダメ。というのも、私の頭の中には「白のフィオレンティーナ」の影響で、ミケランジェロの最大の理解者はジョヴァンニとインプットされてしまってるんです。これは偏に、この本を読むタイミングが悪かったとしかいいようがありません。
1巻で3人が出会い、2巻でヒロインの取り合い、3巻で怪僧サヴォナローラの謀略勃発と事件の収拾。無名時代のラファエロはともかく、レオナルドはその眼力の鋭さを至るところで発揮してます。事件解決の裏には常にレオナルドの影あり。万能の天才とはよく言ったものだと思いました。ラストの収まり方は、ミケランジェロの生涯に影響がないよう無難に収めてあります。ロマンス的には完全なハッピーエンドではありません。思うに、榛名しおりさんの作品には、完全なるハッピーエンドはないような気がします。「マリア―ブランデンブルクの真珠」は、一応成就してますけど、他はなんとも…。当人同志がそれでいいなら幸せなんでしょうという終わり方が多いんですよね。「薫風のフィレンツェ」もそのパターン。リフィナが好きになれなかった私としては、その方が有り難いですが、ハッピーエンド至上主義の人からみたら、ブーイングものなラストでしょう。それもまたひとつの青春です。美術に興味があれば、ルネサンス初期の芸術本を手元に置いて読み合わせると面白さが倍増すると思います。
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Dr.フロイトのカルテ
- 2005年7月22日 11:44
- 歴史と時代
フロイトは名探偵といううたい文句に惹かれてふらふらと購入したのが「Dr.フロイトのカルテ」です。著者の桧原まり子さんはボーイズラブ作品を多数書いていらっしゃる方。博士と医学生という組み合わせにピピンとくるものがあったのですが、ホワイトハートだからいいか、と手に取りました。
![]() | Dr.フロイトのカルテ 桧原 まり子 今 市子(挿絵) 講談社 |
ジークムント・フロイドという名をご存知だろうか?精神分野の祖といわれる名医にして、僕、フェリックス・セントジェルジのもっとも敬愛する恩師だ。そして誰も知らないことだが、悩める人の心を救うだけでなく、数々の謎を暴き、解決する名探偵でもある……。世紀末のウィーンを舞台に、若き日のフロイト博士が医学生フェリックス青年を伴って奇想天外の活躍をする歴史ファンタジー!
物語は3つの病例を主軸にミステリ仕立てで進行していきます。うち二つが幼児期の性的暴力が心身にもたらす影響をテーマにしていました。世紀末のウィーンという社会情勢をうまく取り入れたフロイトの奇人性。今でこそフロイトの心理研究は心理学の基本になってますが、フロイトの問診は、当時の人々にはタブー視されたこと(性の問題)ばかりで、奇人の名医(外科)に祭り上げられています。だからこそ彼の問診で事件が浮かび上がってくるわけですが。関わり合ったヴィーゲル警部もフロイトの精神分析による推理をどこまで理解してくれているやら…。でも、事件を解決してくれるフロイト先生に感謝しているからフェリックスはよしとしているようです。
医者の立場からの推理なので、扱っているのは本格的な殺人事件ではありませんが、捕り物めいたドキドキ感があります。偶然の事故も絡んでフェリックス危うし!な場面はなかなかに緊張感がある展開です。そういう意味では第3話が面白いですね。ヴィーゲル警部に頼まれて潜入捜査をするフェリックス。そしてその報告手紙から真実を導き出すフロイト先生。絶妙のコンビネーションです。
最初にピピンと来たボーイズラブ要素ですが、限りなくゼロです。限りなく、と表現したのは、そういうフィルタを掛けて読めば、いくらでも妄想できてしまう要素が散りばめてあるから。これをファンサービスと取るか、当時の情勢と取るかは読者次第。挿絵がステキなので楽しさ倍層です。実際にフロイトが診察したカルテから書き起こした作品というだけあってリアリティのあるミステリとして楽しめると思います。
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『ふぉん・しいほるとの娘』
- 2005年6月18日 22:20
- 歴史と時代
日本で女医の先駆けとなったシーボルトの娘イネを知ったのはたぶん大河ドラマの「花神」で浅丘ルリ子が演じていたのを見たときだと思う。その後、みなもと太郎さんの「風雲児たち」で概要を読み、やっと本格的な本に手を出した。イネが幕末の人物でなかったら、もっと早くに読んでたに違いない。そのくらい幕末という時代は、私にとって苦手な時代だったのだ。昔は。今は新選組を中心にどっぷり浸かってるけど。変われば変わるもんだ。吉村昭さんは、幕末の作品をいくつか書いていることから、すんなりその世界に入って行けた。
![]() | ![]() | ふぉん・しいほるとの娘 吉村昭 新潮文庫 |
成長したイネは女医を目指して父の門下生を各地に訪ね産科医としての実力を身につけていくが、教えをうけていた石井宗謙におかされ、女児(タダ)を身ごもってしまう。女が学問なんて、という時代だし、住み込みの女性は女中並という感覚の中にあって、イネの境遇は女として不幸というより当時の社会悪だと思う。でも、イネはそんなことに負けていない。着実に産科医として実力を付け、名声を高めていった。恨み辛みより、前向きに生きていこうとする姿勢は本当に素晴らしい。
淡々と時間の進む文章は、非常に読みやすい。本の中でイネは、はじめ「稲」と表記されているが、宇和島伊達家から下賜された「楠木伊篤」へと変わっていった。宮中医師を務めたり、福沢諭吉との親交など、表面上は成功者なのだが、彼女は独身を通し、娘のタダは二度の結婚がいずれも死別。孫の男子は私生児と、必ずしも順風な生活を送っているとはいえなかった。社会的にはむしろ無欲なのに、どこか不幸がつきまとうところに、人生の一筋縄ならぬものを感じてしまう。数奇な運命と片付けるには哀しすぎる女性の物語である。でも、不思議と読後感はサッパリしていた。このあたりが伊篤の為人なのだろう。
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芋奉行 青木昆陽
- 2005年3月23日 13:59
- 歴史と時代
![]() | 芋奉行 青木昆陽 羽太雄平 光文社 1997-05 文庫本も出てるはずですが 図書館や古書店で探すことになると思います |
書物御力掛かりを勤める青木文蔵(昆陽)は、寺社奉行・大岡越前守の命を受け、「古書探索」の旅に出た。連れは御庭番の左吉と剣術修行の松浦慎次郎。甲州道中、二人は怪しい襲撃者から文蔵を守る。世俗に疎く、非力な文蔵だが、やがて「古書採集」の旅の背後に、隠し金山を巡る暗闘が存在することに気付く。薩摩芋の栽培を奨励した男が謎を解く、痛快ユーモア道中記。
古書採集の道中記風に描いてありますが、その実態は、隠し金山を巡る時代劇ミステリーです。それに少し内山家姉妹の恋話が絡んで、脇筋も賑やかで飽きさせない展開になってました。殺伐とした忍びの飛び交う中で、うだつの上がらない風采の文蔵が冴えたひらめきで淡々と古文書をめくっていく姿が妙に笑えます。町人の学者先生は、どこまでも文官なのでした。
羽太雄平さんの作品には忍者が欠かせません。非情なようでも部下の家族を思いやる姿など、日常の裏姿を垣間見せてくれるところも好きです。時代劇で格好良く立ち回るお庭番の悲哀が浮き彫りです。武士だけが人じゃないんだよという叫びが聞こえてくるようでした。でも、そこで卑屈にならず、ちゃっかり生き延びるすべを発揮するのが左吉です。主人公は間違いなく文蔵なのに、左吉と一緒に武家屋敷を探りまわっているような感覚で読めました。
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未来への扉
- 2005年3月21日 11:33
- 歴史と時代
長かったノア・ゴードンの千年医師物語もいよいよ最終巻、「未来への扉」です。
![]() | 未来への扉 ノア ゴードン Noah Gordon 竹内 さなみ 角川書店 2002-04 千年医師物語第三部 |
医師という言葉すら知られていなかった時代、ひとりの少年が手を触れた人の死を悟る不思議な力に気がついた。それから約十世紀、「医師の手」は選ばれし一族に、脈々と受け継がれてきた。そして、現代。ひとりの女医がその運命を担う。大病院でのキャリアを捨てて、無謀にも田舎で医者となる道を選んだ。医療問題と格闘し、人々と触れ合いながら、彼女が、千年医師が見つけた本当の幸せとは…。
男子に脈々と受け継がれて来た血はここにいたって、女性にバトンタッチ。女性を主人公に据えたところが、いかにも現代らしいと思いました。研修でバリバリのキャリアを積んだロバータ・ジャンヌダルク・コールは、自分の進んできた医学の道に疑問を感じ、開業医になることを決意します。医局の教授である父は愕然。アメリカの医療制度を知らないとちょっと理解できない内容です。ここでアメリカには日本のような保険制度がないことを初めて知りました。「命」をお金で買う世界がリアルです。
ロバータの苦難はアメリカの医療制度絡みが多いです。とりわけ産婦人科問題。キリスト教絡みなので、日本人の感覚だとついて行けない。これは事前学習が必要だったかも?というのも、中絶事故がロバータの恋愛と深く絡み合ってくるからです。当事者ではないけれど、彼女が掴みかけた恋の出会いと破綻がそこに集約されます。今風に言えば、バツイチ×子持ちやもめのカップル誕生のハズだったんですよね。
さて、肝心の「神の手」ですが、最後の最後で死期を知るだけの手段から命を救うことに役立ちました。他ならぬロバータの父が彼女の手のおかげで心臓発作から救われたのです。レストランの小さな異変から病院で治療を受けるまでの過程は、これまでにない緊張感がありました。やっと「神の手」が命を救うきっかけを作ってくれたと思うと無性に嬉しかった。無力感から充実感への転換です。不足な部分はあるけれど、ロバータの人生は充実したものであると思います。そしてその血は次世代へと繋がっていきます。医療に終わりがないように、コールの血も終わらないと暗示しているように思いました。
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シャーマンの教え(上)(下)
- 2005年3月18日 21:46
- 歴史と時代
千年医師物語の第一部がドラマチックだったので第二部も同じように期待して読み始めました。
![]() | シャーマンの教え(上) ノア ゴードン Noah Gordon 竹内 さなみ 角川書店 千年医師物語第二部 |
![]() | シャーマンの教え(下) ノア ゴードン Noah Gordon 竹内 さなみ 角川書店 千年医師物語第二部 |
時を経て、舞台は19世紀。初代ロブ・J・コール以来受け継がれてきた医師としての「第六感」の存在を、主人公シャーマンは亡き父の日記の中で知る。そこにはスコットランドからアメリカに移住し、インディアンと共存する父の姿、そして戦地で医師としての宿命を果たす軌跡が記されていた。父と育んだ想い出と重ね合わせながら、シャーマンは患者の命を感じる「医師の手」が、はるか時代を越え、土地を越えて、曾祖父の時代から受け継がれてきたのを知る。 生まれつき聴力を失ったシャーマンと、それを気遣うあまり息子とぶつかる父。折りしも南北戦争の時代、自由の地アメリカで繰り広げられた差別や迫害の中で父と息子は、苦しみながらも戦乱の地で医師としての使命を果たすのだった。奇しくも父の死により家族の絆がふたたび結びつけられた時、千年医師の運命は、シャーマンをインディアンの教えへと導いたのだった。
冒険奇譚に近かった第一部と違い、第二部はかなり重苦しい雰囲気で話が進みます。それもそのはず、お葬式で始まり、その後は死者の日記へと続くんですから。ここで登場するロブ・Jはふたりいます。「ロブ・J」は「神の手」の持ち主に伝えられる名前のようです。冒頭で亡くなったロブ・Jはシャーマンの父です。なぜ息子のロブ・Jがシャーマンと呼ばれるようになったかは、さらりと書いてありますが、実はこの物語の中核を為す重要な部分です。これは下巻になって非常に深い意味を持ってきます。
第一部との決定的な違いは、第二部がミステリー仕立てになっていることでしょう。シャーマンの名付け親であるマクワ・イクワが惨殺された事件の謎が解けた時、全てが丸く収まり再び時が流れはじめました。重苦しい雰囲気もそこで一変します。しかし、この殺人事件は横軸がやたら複雑で、当時の文化的背景も詳しく知ってないとひもとけません。私は完全にお手上げでした。解決したときもなかなかそれとわからなくて、シャーマンが幸せになったところで「ああ、そうだったのか」と気がついたくらいです。もともとミステリーが好きじゃないんだもん。婉曲に解決を示唆されてもわかりませんってば。
絡み合ったミステリー好きには面白いと思います。単純明快な冒険モノ好きには、読み進めるのがきつかった。辛いほどではないけれど、過去を探る話しは苦手なんですよ。特に親子の確執とか、恋愛のもつれなどのまどろっこしい部分は斜め読み。だから余計に謎が解きにくかったのかも知れません。でも、兄との絆が修復されるあたりからはスピーディで読みやすかったです。次巻は更に時代が下ります。恋愛のもつれが絡む展開は勘弁して欲しいなあ。
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ペルシアの彼方へ(上)(下)
- 2005年3月17日 17:03
- 歴史と時代
世代を超えた長編が読みたくて選んだのがノア・ゴードンの「千年医師物語」でした。まずは一人目というか、元祖の医師ボブ・J・コールの物語です。
![]() | ペルシアの彼方へ(上) ノア ゴードン Noah Gordon 竹内 さなみ 角川書店 千年医師物語第一部 少年はその手に 千年の運命を感じた…。 |
![]() | ペルシアの彼方へ(下) ノア ゴードン Noah Gordon 竹内 さなみ 角川書店 千年医師物語第一部 世紀を超えて紡がれる 三人の医師の運命! |
それは医師となるべく力を宿した家系の、世紀を超えた運命の物語。始まりは11世紀ロンドン。いまだ争いと迷信の絶えない時代、一人の少年が遙かペルシアへと旅だった。彼は異郷の地でユダヤ人と偽り、伝説の内科医イブン・シーナの教えを授かり、アラー王の寵愛をも受け修行に勤しむ日々を過ごす。運命の相手メアリーと結婚し人としても成長し一人前の医師となった時、ペルシアは疫病や戦争に冒され衰退していった。だがボブの学んだ医学はロンドンで異端視され、彼はメアリーの故郷スコットランドで神から授けられた手に感謝しつつ生涯を全うした。
ロブの手は、死期の迫った人に触れるとそのことを察知する能力を持っていました。それを神から授かった特別な手として、ロブは感謝し医師を目指します。神の手というと癒しの力を思い浮かべていただけにまずそこで意表を突かれました。ところでロブは最初から医師を目指していたわけではありません。しかも当時の医師は怪しげな術を施す「床屋」兼「芸人」という扱いだったのです。両親を亡くしたボブが引き取られたのが、その旅芸人の床屋だったので、彼がその技術を身につけたのは生きるためでした。高尚な精神で医師を目指すのとは出だしから違ってて、正直とまどいました。インチキ医術も眉をしかめたくなるものばかりでしたし、ボブの良心はどこにあるの?状態で。それがイスラムで医術を学んだユダヤ人との出会いで一変します。
お礼奉公から自由になったボブはイスラムで医師を目指すために異端視されているユダヤ人になりすます!同時に、少年から青年への脱却です。道中でチラリと心惹かれた少女が未来のメアリー夫人。メアリーの父が盲腸で亡くなるのを看取り、彼女と生活を共にするあたりはなかなかドラマチックです。現代において、盲腸は簡単な手術(今は更に内科療法も!)で治せる病気ですが、手術という治療法が確立していなかった時代では死病だったんですね。これを契機にボブは「人体解剖」に開眼しました。
けれどもペルシアをめぐる国際情勢の悪化と疫病はボブの自由を奪います。王立病院の医師だから、危険な地域へ出向かなければならないのです。ペストが流行った地方へ派遣されたり、従軍医師として同行したり。ボブは常に命の危険と隣り合わせでした。けれども、友を失いながらも生き延びた先で待っていたのは、ペルシャの滅亡。そこで絶望せずに見切りを付けてロンドンへ帰ろうというところがドライな欧州人らしいと感じました。家族のために、というのもあるけれど、お父さんは強かった。
やっとの思いで帰ってきても、ロンドンではまるきりの異端児。挙げ句の果てには宗教裁判で殺されかける始末です。でもボブは運が強い。死んだと思っていた弟が教会で出世していて助けてくれます。ただし、弟は自分の保身のために兄を逃亡させたのです。これでボブは完全に自分の家族はメアリーとその子供達だけだと悟り、スコットランドへ根を下ろしました。一つがダメでも道を切り開く強さがあるんです。
人の死期がわかるというのは医師として類い希なる才能だけど、普通に考えれば気味の悪いものだと思います。しかも、ボブの時代では「わかるだけ」で助けられない。非常に強靱な精神の持ち主であるボブだからこそ受け入れられたのでしょう。その力はボブの子供に受け継がれています。次世代はどう受け入れていくのか、興味は尽きません。
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鹿鳴館の貴婦人 大山捨松
- 2005年2月 9日 16:04
- 歴史と時代
明治政府の肝いりで米国に留学した5人の女性のその後は?「鹿鳴館の貴婦人 大山捨松―日本初の女子留学生」はそんな疑問にひとつの答えをくれる本です。
【タイトル】鹿鳴館の貴婦人 大山捨松―日本初の女子留学生
【著者】久野明子
【出版】中央公論社 1993-05
『会津藩に生まれ、明治四年渡米、のちに陸軍卿大山巌と結婚、
「鹿鳴館の花」と謳われ、女子英学塾の設立に尽くした女性。』
この吹き出しを見て、まず「???」でした。女子英学塾って津田塾大学の前身だよね。だったら津田梅子でしょ?その謎は読んでるうちにわかりました。米国に留学した5人の女性というのがキーワード。早い話がふたりは同期生。名前を掲げて教育一筋に動いたのが梅子で、捨松は裏からそれを支えた人だったのです。
女性の名前に「捨松」とは随分失礼な、と思いましたが、それは外国留学へ送り出す娘に対しての家族の想いが籠もった名前でした。同時に「会津」の思いも込められていたことでしょう。捨松はその期待に応えようと必死で学んで帰国します。けれども、彼女の前には「国家」と「習わし」という双璧がありました。元家老の娘の肩書きは帰国した捨松を自由にはさせてくれなかったのです。
曾孫である著者が発見した親友への手紙には、その無念な気持ちがにじみ出ています。だから、彼女は自分の夢を梅子に重ね、パトロンになったのだと思います。梅子については、地味な女子の読書日記さんが「大庭みな子:津田梅子」で感想を述べておられるので、併せて読むと帰国子女の生き方を見る上で面白いと思います。ちなみに、この本も「手紙」で構成されてます。
捨松は梅子のように身軽に動けない代わりに、大山夫人という肩書きがありました。心ない中傷もありますが、彼女はそれをフルに活用しています。寄付集めの算段とか、慈善バザーなどは留学時代に培ったパワーでしょう。社交性に長けていた一面性がうかがえます。
もしも捨松と梅子の立場が入れ替わっていたら…。協力関係は築けても女子英学塾の成功は無理かな。不本意ながらもふたりはそれぞれの能力をフル活用できる生き方を選んだのだと思いました。
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夜明けの雷鳴
- 2005年2月 8日 18:49
- 歴史と時代
高松凌雲を知ったのは、時代劇スペシャル「五稜郭」で風間杜夫が演じているのを見てからです。彼の演じるインテリ風の医者が武士に見えて、でも、松本良順とはタイプが違う?主人公そっちのけで興味を惹かれました。
慶応三年、万国博覧会に出席する徳川昭武の随行医として渡欧した三十一歳の医師・高松凌雲。パリの医学校「神の館」で神聖なる医学の精神を学んだ彼は、幕府瓦解後の日本に戻り、旧幕臣として函館戦争に身を投じる。壮絶な戦場において敵味方の区別なく治療を行った、博愛と義の人の生涯を描く歴史長編。
本書の大半は、函館戦争における高松凌雲の活動ぶりを描いています。医者として赴きながらも当時の医療制度の習わしに阻まれ思うような活動ができなかった苦痛。函館病院の頭取に乞われた時、そこを明らかにして対応してからでないと引き受けなかった頑固さ。命をかけて患者を守った勇気。官軍とのやり取りは、非常に緊迫するけれど、そこに医者としてのあり方の本文を見たように思いました。ここは時代劇ドラマでもしっかり描かれているシーンなので、すっと入ってきた感じ。
その彼を作り上げた土台がパリで学んだ日々です。あとがきにも書かれているけど、この渡欧なくして函館戦争に身を投じた高松凌雲はありえない。博愛とひとことでは片付けられない重みのある経験を得ていました。幕末から明治初期の留学は、日本の歴史に大きな影響を与えたのだと感じます。
高松凌雲は義を忘れない人でした。そのことが彼を知識は貪欲にしながらも富や名誉には無欲に至らしめたと思います。勉強したくて養子先を出奔するなんて、当時としてはすごく思い切った身の振り方ですよ。しかも兄弟が同じ道を選んでるとは!それを黙って見逃した実父も肝の据わった人です。さて、当人は忙しい医者だから晩婚。でも、子だくさん。兄の非業の死や弟の埋没された人生に比べると幸せな一生でした。
![]() | 夜明けの雷鳴―医師高松凌雲 吉村 昭 文芸春秋 2000-01 |
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エドの舞踏会
- 2005年2月 8日 18:47
- 歴史と時代
先日読んだ「警視庁草紙」の延長線で読んだのが、山田風太郎の「エドの舞踏会」です。単独タイトルを取ってますが、山田風太郎明治小説全集の第8巻に収録されてます。
海軍少佐・山本権兵衛は将校西郷従道から、元勲夫人たちの舞踏会への出席勧誘係を命じられた。井上馨、伊藤博文、山県有朋、黒田清隆、大隈重信らの"私"の顔と妻たちの秘められた過去。
舞踏会というからには鹿鳴館がメインだろうと思っていたら大違い。そこに出席するまでの道のりの方が遙かに長い物語でした。名だたる政治家の夫人達にスポットを当てた作品です。下世話な言い方をすれば、政治家スキャンダルエピソード集。けれども彼女たちを批判するつもりなど毛頭ありません。むしろ、よくぞここまできた、と賞賛されるべき人達なのです。
元勲夫人たちの秘められた過去とは、ずばり彼女たちの出自が花柳界にあったことです。それは山本権兵衛にしても例外ではありません。その昔、「海は甦る」というTVドラマで、後に夫人となる遊女を抜けさすシーンが冒頭にあったのを覚えています。
さて話を戻して、舞踏会への出席勧誘を直接担うのは、大山巌夫人です。彼女は「鹿鳴館の貴婦人」を読んだとおり、元会津藩家老息女にして初の帰国子女という生粋の名家の出自ですが、せっかく学んできた経験を活かせないことを悔やむ日々を送ってます。この話の中でも説得に当たりながら、「こんなことのために学んできた訳じゃない」とつぶやいています。自分の力を活かせないつらさがよく出ている場面です。
説得された女性達の中でピカイチなのは、伊藤博文夫人です。借金取りを前にしての威勢のいいタンカは惚れ惚れしました。他の夫人達にしても、いざ決断するときには、思い切りがいいです。気っぷのいい姉さん肌。旦那の方が情けないぞ。
時代は明治だけど、鹿鳴館の華たちの生き方は江戸の香りが艶やかです。だから、エドなんだなあとタイトルの付け方に唸らされました。
![]() | エドの舞踏会-山田風太郎明治小説全集〈8〉 山田風太郎 筑摩書房 1997-08 |
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獅子の棲む国
- 2005年2月 8日 18:27
- 歴史と時代
新選組で明治時代を生き抜いた「斉藤一」を追いかけて巡り会ったのが秋山香乃さんの「獅子の棲む国」です。秋山香乃さんといえば、土方歳三を描いた「歳三往きてまた」が有名ですが、ここでは会津の山川大蔵にスポットを当てています。
敗れし者の明治維新。
烽火を上げるのは、若き軍事天才・山川大蔵。西南戦争で、仇敵薩=西郷軍を撃破し、新星日本のヒーローとなる。若き会津群像魂解放の開始だ! 会津人の再生ドラマを描く。
物語は落城寸前の鶴ヶ城からスタート。のちに初の女子留学生となる山川の妹咲子(改名・捨松)も弾拾いでちらりと姿を現します。ここから始まったのは、山川が獅子舞に扮して劇的な入城を果たしたシーンが彼の登場を兼ねているからです。天才山川の名を読者にも知らしめる、ドキドキワクワクの演出でした。ものすごく緊迫した場面なのに、彼の登場でがらりと雰囲気が変わります。山川の存在感のすごさを実感しました。
官軍に降伏してからの日々は、会津にとって地獄の試練。山川にとっても辛い日々です。会津藩がなくなっても「会津」とさげすまされる。それでも、後進のために歯を食いしばって陸軍に出仕した彼の反骨精神にはただ頭が下がるのみです。
山川大蔵から山川浩へ改名した行も印象的です。孟子の一節「我善く吾浩然の気を養う」から取った「浩」には、藩の犠牲となった人の人生も背負う覚悟がありました。獅子に相応しい改名場面です。
さて、私がお目当ての「彼」は基本的に斉藤で表現されていて、神出鬼没、いつのまにやら山川の側に控えてます。人間らしいやり取りがふたりの間にあって、嫁取り話では不謹慎にも吹き出してしまいました。その後の「付き合いますよ」「頼もしいな」へと続く関係の深さが推し量られます。
時間軸は会津陥落から西南戦争の終焉までの約9年です。その間にどれほどの忍耐と葛藤があったのか。明治の要人たちにも触れつつ、たいへん濃い足取りを追わせていただきました。
![]() | 獅子の棲む国 秋山香乃 文芸社 2002-11 |
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警視庁草紙
- 2005年2月 8日 18:17
- 歴史と時代
「警視庁草紙」は山田風太郎明治小説全集の1巻と2巻に収録されている明治時代のエンターティメント小説です。主軸は明治六年に征韓論に破れた西郷隆盛が野に下り、明治十年に警視庁の抜刀隊が出発するまで。教科書で習うと大半が西南の役までひとっ飛びしますので、その間にこんなにも事件があったのかと驚きました。
野球で言えばオールスター戦を見てるような感じでしょうか。幕末を彩った有名人がこれでもか、というくらい登場します。活躍するのではなく、登場して事件の打開策をくれるのです。また、実働している兵四郎より御隠居の方が仕切ってるように感じるのは気のせいではないと思います。
メインの一人が川路大警視なので、先日読んだ「明治暗殺伝」と被る事件も多く、新選組の生き残りである「斉藤一」の活躍ぶりと併せて対比するのも面白いです。「警視庁草紙」での活躍度は高くないですが、「こんなところにいたのね」とハートマークを乱発しながら読みました。
時代が時代だけにどうしても男性中心に回っていますが、彼らに関わっている女性たちの切ない思いもそれなりに盛り込まれてます。最後の展開を駆け足っぽいと捉えるか、怒濤の展開と感じるかは、登場人物の誰に感情移入したかによって違うのではないかと思います。
この本は新選組物にはまりだした当初に見つけていたのですが、なかなか買う踏ん切りが付きませんでした。Ciel Bleuさんの感想を拝見してようやくGET。四季さん、決断させてくださってありがとうございます。しっかり堪能しましたよ。
![]() | ![]() | 【タイトル】山田風太郎明治小説全集(一)(二) 【著者】山田風太郎 【出版】筑摩書房 |
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明治暗殺伝
- 2005年2月 8日 18:06
- 歴史と時代
新選組で明治を生き延びた「斉藤一」を求めて行き当たったのが峰隆一郎さんの「明治暗殺伝」でした。彼は、主人公ではなく、改名後の「藤田五郎」を名乗ってますが、そんなことはどうでもいいんです。
物語は、岩倉具視の暗殺を目論む赤報隊の生き残り・叶弦三郎とそれを阻止する警視庁の大警視川路利良との攻防戦が主軸ですが、私の視線は、川路大警視の手足となって実働している藤田巡査に釘付けです。大警視と一介の巡査では地位に隔たりがありすぎて亭のいい使い走りをさせられているような感覚に囚われもしますが、主人公ではないのだから仕方ありません。岩倉具視がメインに扱われてますが、他にも大物政治家がたくさん登場して、それぞれに派閥の暗躍ありと、一面だけに留まりません。それに対して襲ってくるのは新政府に恨みを持つ剣士なので、壮絶だけど明快な生き方。このあたりの対比も面白いと思いました。失礼ながら、古狸vs忠犬の図が浮かび上がったり。
弦三郎は凄い使い手なのに、活躍する時代が遅すぎた気がします。独眼竜正宗が「生まれてくるのが遅すぎた」と言われたのと似てますね。明治という時代も関係しているのでしょうが、剣客物というより、ハードボイルドを読んでる感じの物語でした。
<作品データ>
【タイトル】明治暗殺伝―人斬り弦三郎
【著者】峰隆一郎
【出版】祥伝社 2003-04
このシリーズは、
2.明治・人斬り伝―秘剣・二階堂流
3.明治剣鬼伝―妖剣・無眼流
4.明治讐鬼伝―魔剣・神陰流
5.明治殺人剣―餓鬼・不破亮之介伝
と続くので一緒に読むと、どっぷり漬かれて幸せになれます。
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幕末新選組
- 2005年2月 8日 18:01
- 歴史と時代
新選組ものといえば、土方歳三、沖田総司ものに集中しているので、他の剣客ものを探すのは一苦労。そんな中で見つけたのが永倉新八を主人公にした「幕末新選組」でした。
七十七年の天寿を全うした隊士・永倉新八。
女には弱いが、剣術では近藤勇以上と噂された新八の壮快な人生。
永倉新八は、剣術好きの悪戯小僧として登場します。彼の青春はひたすら剣の道に燃え、新選組と関わったのもその延長線です。だからかもしれませんが、さわやかな青春で、なにげに地味。彼と組みなしている原田佐之助がきらびやかなだけに、余計にそう感じられたのかも知れません。
女性で有名なのは、芸妓の小常です。彼女との話は、この本の中でもかなりのウエートを占めています。それも永倉が一方的に押している。ライバルに藤堂平助というのが気の毒でした。面白いことに、この物語の中の藤堂は珍しく嫌なヤツに書かれていました。
新選組隊士であっても、永倉や原田は近藤局長と同格のつもりで動いています。それがいくつかの事件に繋がるし、小さな確執が袂を分かつことにもなります。どちらの味方をするというより、生き方の違いというしかないと思いました。
明治になって永倉は杉村家の婿養子として生きていきました。それは、卑怯というより、時代の中で生き抜くことを彼が選んだからだと思います。でなければ、老いて京都を訪ねたり、小常との間の娘と会ったりはしないでしょう。また、新選組の石碑や名誉回復に尽力しているから、それこそが彼の生き延びた目的だと思いました。そういうのも男気のある生き方といっていいのではないでしょうか。
永倉新八は、杉浦義衛に改名後も、永倉新八であることを併記しています。藤田五郎が斉藤一であることを黙していたのと実に対照的です。自分の生き方に誇りを持っていた永倉らしい有り様だと感じました。池波正太郎さんが土方歳三や沖田総司ではなく、永倉新八を書いた理由がなんとなく想像できるような気がします。
![]() | 幕末新選組<新装版> 池波正太郎 文藝春秋 2004-01-10 |
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空の石碑
- 2005年2月 8日 17:56
- 歴史と時代
幕末といえば、新選組。その新選組と深い関わりを持つ松本良順が「空の石碑」の主人公です。
医は洋方に倣え
幕末、明治維新という激動の時代、西洋医学を武器に信念を貫いた男の生涯を通して日本人の精神を問う
蘭学をもって幕府医官として仕えた松本良順だが、彼は佐藤家の人間だった。そう、あの佐倉順天堂の直系。それがこの時代の特性ゆえに直参・松本家へ婿養子に入ります。でも、どちらの家にあっても西洋医学との関わり合いはあったわけです。そこはそれ、江戸時代だから。
新選組の主治医的存在であり、会津に肩入れしたので牢獄で謹慎したりと苦労もあります。けれども、その実力・知識は確かですから明治政府になっても重用されます。すると今度はそれをよく思わない人がいて、と苦労は絶えなかったようです。しかし、西洋医学に従事しながらも松本良順は限りなく東洋の人でした。だから「空」。気っぷうのいい江戸っ子良順の生き様を手にとって見てください。
![]() | 空の石碑―幕府医官松本良順 篠田達明 日本放送出版協会 2001-02 |
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江戸のまかない
- 2005年1月31日 22:55
- 歴史と時代
江戸時代の時代小説を読むのは好きだが、では、実際の生活はどうなの?ということで手にしたのが、石川英輔さんの「江戸のまかない―大江戸庶民事情」です。
『常識は覆された。江戸の本当の姿は、目から鱗のことばかり』と帯書きにあるとおり、時代劇や時代小説で知ってる庶民生活とはかなり異なります。
私が一番興味のあったのは、普段食べてる料理。これは作者の石川氏も注目していたらしのだが、なんと資料がない!考えてみれば、当たり前のことで…だって、今日何を食べたかなんて記事、普通残しますか?個人の日記でも、毎日のおかずを細かく記録していることは少ないと思う。家計簿は別だけど、江戸時代に家計簿はないのだ。
それでもさすがはプロ。ちゃんとそれなりの資料を探し出して紹介してます。具体的には、おかず番付。いわゆる安上がりなお総菜を相撲の見立番付にして紹介した物らしいです。
八杯豆腐、昆布油揚げ、きんぴらごぼう等、現代でも身近な家庭料理が紹介されてます。名前だけで想像できる料理が多いので、日常で一品料理に使えそう。それだけ知らないお総菜が多いことの証明になってしまった。
この本以外にも、江戸をテーマにした生活事情本をたくさん執筆しておられるので、スローライフの生活を見直すのに併せて読むのがお勧めです。でも、文明に慣れきった現代人に江戸時代を経験するのは無理。いくら環境に優しい生活でも、それだけは勘弁してください。
![]() | 江戸のまかない―大江戸庶民事情 石川英輔 講談社 2002-02 |
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闇の帝国 自由の王妃アアヘテプ物語
- 2005年1月10日 17:18
- 歴史と時代
エジプトのファラオといえば、第19王朝のラムセス大王が有名ですが、「闇の帝国-自由の王妃アアヘテプ物語」はそれより以前、第17王朝のヒクソスからの解放を主軸に据えた物語です。ヒクソスからの独立戦争といえばわかりやすいかな?でもエジプトは元々エジプト人の国だから独立ってのも何かヘンよね。
いま鮮やかに蘇る、古代エジプト悲劇の王妃の壮大なる人生。悲劇の運命に翻弄されながらも気高く力強く生き抜いたエジプトの王妃、アアヘテプ。気高く美しく、そして勇気に満ちた彼女には、恐れるものは何もない。
かなり煽った紹介文ですが、アアヘテプは決して不幸なだけの王妃ではないです。愛する夫を得て、神の妻として雄々しく生きたんですから。そりゃ、不幸もありました。夫や子供を先に失うってのは確かに不幸です。でも、そのために彼女はそういう夫を選んで子供を産んだんだし、本望でしょう。戦争につきものの陰謀、理不尽な横行、てんこ盛り。そのあたりをどう生き抜いたのかは本を読んでもらうとして…。
エジプトの物語で面白いのは名前です。職業や役割、その人の特徴がそのまま名前になってます。こういうのを無理に邦訳しなくても、説明をいれてそのままの発音でとおせばいいのに。日本語的には、あまりきれいでない音語もあるから無理矢理訳してるんだろうな。しかし、犬が「笑い屋」ってのもどうだか…。
![]() | 闇の帝国―自由の王妃アアヘテプ物語〈1〉 クリスチャン ジャック Christian Jacq 山田 浩之 角川書店 2003-09 第2巻「二つの王冠」 第3巻「燃えあがる剣」 |
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